前回は、学ぶ力をどのように活かすのかについてお伝えしました。
今回からは、学ぶ力をどうやって高めていくのか、具体的にお伝えしていきます。
初めにお伝えしていた通り、ここでお伝えする学ぶ力はあなたの特性に合った勉強法です。そのため、最終的には、ご自身に合う形を試行錯誤しながら見つけていただくことになります。どのような行動でも、人に迷惑をかけずに結果につながるのであれば、OKです。
しかし、何事にも原則はあります。人として多くの人が共通に持っている特徴や、言葉の意味をふまえずにすべてを独力で見つけるのは、コスパが悪いです。まずは先人の知恵の力を借りましょう。
そのため、まずは原則通りにやってみることです。何でもやってよいと言いましたが、唯一やってはいけないことは、行動する前から「これは自分に合うわけがない」と言って自分の勉強法を何も変えないことです。行動を変えなければ結果は変わりません。このブログを読んだからと言って、あなたの学ぶ力が高まるわけはありません。行動した人のみが、結果を得られます。まずは、原則通りに行動してみることです。そこから、自分に合わないと思ったら変えていくということを繰り返しながら、自分に合う形を見つけていただけたらと思います。
それでは、まずは脳の仕組みについてお伝えしていきます。
記憶力とは何か
テスト対策で暗記をしている際、あなたは何をしているでしょうか?
テキストやノートをひたすら読んだり書いたりして、頭に入れようとしている・覚えようとしているのであれば、それは記憶力の意味を誤って捉えていることになります。
記憶力とは、覚える力ではなく、思い出す力です。
脳としては、一度見たり聞いたりしたものはすべて覚えているとも言われています。しかし、その中から思い出せるものが少ないため、覚えが悪いように感じるのです。そのため、あなたがテスト対策等で暗記をしようとしているのであれば、頭に詰め込もうとするのは非効率な学び方となります。
思い出す力を高めるには、思い出す練習をする必要があります。テストの本番がまさに思い出すことが試される場です。頭に入っていることを、何も見ずに言う・書くということを通して、思い出せるかどうかをテストされます。つまり、暗記力を高めたければ、テキストやノートをテスト形式にまとめ、勉強中に何度も赤シート等を使って隠しながら思い出す練習をすることです。
たとえば、以下は僕がある試験対策として作ったノートです。僕はいつも、テキストを読みながら思い出す力を試す形にノートにまとめています。こうすることで、試験本番と同じ力を試すことができ、練習と本番でより近い得点を得ることができます。また、思い出す力を直接訓練できるため、ただテキストを何度も読むよりも覚えるのが早いです。これ1ページであれば、数分で覚えられることでしょう。
長期記憶にこだわらない、短期記憶をうまく使う
記憶力にはもうひとつ大切な点があります。それは、長期記憶と短期記憶です。
長期記憶とは、その情報に触れることが長期間なかったとしても、必要なときに思い出せる記憶です。たとえば、子どものときにはまっていたウルトラマンやポケモンの名前は、大人になって久しぶりに観たとしてもある程度言えるでしょう。
短期記憶とは、その情報に触れないと、数日単位の短期間で思い出せなくなる記憶です。昨日のニュースや友達との会話、学校で新しく学んだような気がすることなどがここに含まれます。
ここで意識しておいていただきたいことは、短期記憶と長期記憶を目的によって使い分けることです。世の中に多く広まっている暗記法や勉強法は、そのほとんどすべてが長期記憶することが目的となっています。だから多くの人は毎日コツコツ勉強したり、用語を覚えたりして、短い間隔で何度も復習したりします。
しかし、資格の勉強も、極論はテスト当日に合格点が取れる量を暗記していれば合格します。いつどれだけ勉強したかは関係ありません。前日に詰め込んでも合格できます。短期記憶を使うことも有効な試験対策になるということです。短期記憶=悪というイメージを捨て去りましょう。立派な記憶力です。長期記憶にすべてを叩き込むのではなく、どちらにとどめたい記憶かを意識して情報を選別することが大切です。
それでも、せっかく学んだのだから長期記憶にとどめたいという方には、ここでもうひとつ大切なことをお伝えします。
「長期記憶もいずれ多くは忘れ去られる」ということです。先ほどのポケモンも、ピカチュウなど定番は覚えていられますが、アズマオウやニドランと言われると、曖昧になってくるでしょう。ポケモンのゲームをしようものなら、いちいち調べないと効果的な攻撃を組めないかもしれません。
つまり、いくら今熱心に取り組んでも、ずっと触れ続けている情報でなければ、熱心に取り組んでいたときに必要と思っていた量すら覚えていられないということです。必死に覚えても、別の勉強範囲に移って数カ月もすれば、そのとき解けていた問題も出来ていた仕事も記憶だけではできないということです。
だから、復習と新しい学習を何度も繰り返して着実に進もうとするのは、実際は着実には進めていないということです(一般論ですからね。どれだけ時間が経っても忘れない人もいます)。すべてを長期記憶に叩き込もうとするのは、無理な話ということです。人は忘れる生き物です。忘れるからこそ、過去に縛られることなく未来を向くことができます。ここに抗うことは、99%の人間には無理ですね。
忘れるということを受け入れましょう。そして、忘れても大丈夫なように学ぶようにしましょう。用語は忘れてもネットで調べればすぐに出てきます。つまり、調べ方や必要なキーワードが分かっていれば、いちいち覚えなくても良いかもしれません。「国会には衆議院と参議院があって、それぞれ定員が・・・」と覚えなくても、「国会には2つ議会があって、それぞれ定員がある。あとは必要なときに調べよう。」ぐらいアバウトでも、制約やポイントを押さえておけば、日常で困ることはありません。困るのはクイズ番組に出たときぐらいですかね。
勉強=学校のテストで点を取れるように頭に情報を入れることと思っている人ほど、何でもかんでも長期記憶に叩き込もうとします。そしてすぐに忘れる自分が嫌になり、自分は勉強ができないと言い始めます。テストがないのにテスト対策する必要はありませんよ。人がすべてを覚えておけるのであれば、そもそもしっかりと勉強する人は出てこないでしょう。本をサラッと読むだけです。忘れて当然です。その自分を受け入れ、本当に頭にとどめておく必要がある情報は何か?を考え直しましょう。
人は、脳の数%しか使っていない
脳は大きいです。4足歩行では頭を支えられないため、2足歩行がメインとなったという説もあるぐらいです。僕たちは、毎日・毎秒、脳を使って考えながら日々の生活や判断をしています。
しかし、研究によると人は脳をたったの数%しか使っていないようです。残りの90%以上は何のためにあるのか分からないのに、これほどまでに大きな頭脳を人は持っているということです。
ここからは僕の仮説ですが、僕はこの脳の使用率には大きな可能性があるのではないかと考えています。もう1%だけでも脳を使えるようになれば、とてつもなくハイスペックになれます。反対に数%しか使っていないということを自覚すれば、本気を出しているようでまだまだだということも分かります。どれだけ疲れたと思ったとしても、脳は余裕ということではないでしょうか。疲れているのは実は体や目など部分的なものであって、脳にはまだまだ十分な体力が残っているのかもしれません。
そう考えると、毎日多くのことに取り組めます。体が疲れていても脳は元気です。気持ちが変われば、脳も活発に動いていると感じます。あなたの脳には、大きな可能性があるということを認めてください。
1日の思考回数には、上限がある
脳には大きな可能性があると言いましたが、一方で思考回数には上限があるとも言われています。1日に数万回です(諸説あります)。
「それだけたくさん考えられるのであれば、特に気にしなくて良いでしょう」と思うかもしれませんが、数万回の思考は意外とすぐに使い果たします。
- お昼ご飯何を食べようか
- トイレ行こう
- スマホに友達からメッセージ来てないかな?
これらはすべて、それぞれ1回とカウントされます。1秒にいくつも思考していることが分かるでしょう。また、普段どれだけ無駄なことを思考しているかということにも気づくことでしょう。
無駄に思考していると感じることは、生活にかかわることだけではありません。勉強中、机の上が散らかっていれば、目に入るもの1つ1つ認識して思考に入り込んできます。床にごみが落ちていれば、そこを通るたびに「ごみがある」と思考します。スマホの画面が割れていれば、見るたびにひび割れのことを考えます。買い替えのことも考えるかもしれません。
つまり、身の回りを整えることは、学ぶ力を高めることにもつながる、ということです。世の中の成功者をイメージしてみてください。彼らの家は散らかっているというイメージをしますか?それとも、掃除や片付けが行き届いていて、勉強や仕事に集中できる環境を作っているとイメージしますか?
あなたの身の回りの整理から始めてみましょう。
人は、見たいように見る。聞きたいように聞く
錯覚や錯視の実験に触れたことがある人は多いと思います。ミュラー・リヤー錯視やツェルナー錯視など、一時期テレビでも数多く取り上げられていました。
これらは驚きながらも一種のエンタメとして受け取ることができますが、脳の錯覚や思い込みについては、笑い事では済まされないこともあります。
ある日、心臓外科医の山田は勤め先の病院から買い物に出かけた。そこでたまたま、顔見知りの鈴木さんに出会った。お久しぶりですとあいさつしたが、山田は鈴木さんが夫と浮気をしているのではないかと疑っているため、顔は引きつっていた。
この文章を読むと、最後の一文がすんなり入ってこない人もいるでしょう。しばらくして、山田が女性だったと気づき、読み直して意味が通ると感じる人もいます。
このように、人は自分の育った背景や今まで得てきた常識・知識をもとに世の中を知覚します。人の話も自分の立場から考えることがほとんどです。そのため、本を読んでいても何を言っているのかが分からなくなったり、人のアドバイスも素直に聞き入れられなかったりします。
自分が理解できないと感じているときほど、自分の理解したと思っていることを疑いましょう。どこまでが相手や本が言っていることなのか、どこからが自分の解釈なのか。
- 相手は一人の友達の話をしていただけなのに、あなたが勝手に「これだから最近の若者は」と一般化して、しかもそれを相手の意見だと思い込んでいませんか?
- 会話の中で、急に主語を見失うことはありませんか?相手は自分と同じ知識を持っていると思い込んで、必要な説明を省略していませんか?
- ネットニュースやテレビの報道を、自分の解釈に合うかどうかで、正しい・間違っているとゆがんだ見方をしていませんか?
どれも、誰でも起きるものです。いつでも起きるものです。脳は自分で自分を騙しているということを、頭の片隅に置いておきましょう。
忘却曲線から分かること
最後に、有名なエビングハウスの忘却曲線の話をします。実験の詳細や世の中一般での解釈については調べていただければと思います。ここでは、僕としてためになった解釈をお伝えします。
- 実際は、エビングハウスの忘却曲線ほど人は忘れっぽくない
- 3日経って覚えていることの8割以上は、ある程度長期で覚えていられる
1については、この実験の内容から言えることです。この実験では、無意味な文字列を暗記して、忘れるまでの時間を計測しています。普段、あなたはそのようなものを覚えることはないでしょう。言葉の通じない異国に放り出されたのでなければ、意味のある言葉やストーリーに触れていると思います。
エビングハウスの実験で分かったことというのは、人は覚えたことは忘れる、ということと、忘れる際は直線的ではなく曲線的である、ということです。その曲線の下がり具合は人によります。ここは自分で調べてみるとよいでしょう。
僕が自分を調べて分かった大切なことが、2です。何度も触れなければいずれは忘れてしまうかもしれませんが、僕の場合は、3日経って8割覚えていられるのであれば、1か月後もほとんど覚えています。
この数字の意味が分かりにくいかもしれませんが、これによって僕の勉強方法が大きく変わりました。たとえば、受験の際も資格試験の勉強をする際も、暗記が必要なことは量で3分割して、毎日1/3ずつ覚えます。それを6日、9日、12日・・・と繰り返せば、いずれ3日前に覚えたことを8割~9割以上覚えていられる状態になっていることが分かります。その状態になれば、試験当日でも安定して合格点を取れるということです。
僕としては、試験に向けてコツコツ勉強するというのは、こういうことだと思います。合格のために覚える必要があることとその得点率を把握し、自分の記憶を維持できる期間を理解し、その状態に持って行くために何日で必要な範囲を覚えきるかを計算する、ということです。
エビングハウスの忘却曲線は、人の記憶に関するとても素晴らしい実験です。しかし、その情報も知っているだけでは意味がありません。自分に当てはめられなければうまく使えません。人の平均はあなたには当てはまらないです。実験が示してくれているのは、人にはこういう傾向があります、ということだけです。自分にも当てはまるかどうかは、同じように自分に対して実験してみないと分かりません。これが、自分に合った学び方を見つけるということです。
まとめ
脳の仕組みについて、すでのご存知のこともあれば、初めて聞いたということもあったかもしれません。初めにも書きましたが、ここで大切なのは、まずは原則通りにやってみる、ということです。部屋が散らかっているのであれば、自分がスッキリするように片づけましょう。全部覚えないと次に進めないと思っているのであれば、その気持ち悪さを持ちつつもある程度のところで次に進んでみましょう。
そして、それを少なくとも1週間試してみることです。1週間後に、そういえば○○が良くなった、もしくは悪くなったというのが見えてきます。そこからが改善です。良い点を残しつつ、悪い点やもっと良くなる点に改善を加えていきます。本当に何もかもだめでこれでは勉強が手につかないというのであれば、きっぱり捨てればよいです。元のやり方に戻ろうと思えばすぐに戻れるのですから、変に今にこだわらず、どんどん変えてきましょう。